2026年夏、GlobeHand Projectが開催したドイツ・ハンドボールサマーキャンプ。
全国から集まった中学生たちを指導したのは、ヨーロッパのトップレベルで長年指導してきたヴェリミール・ペトコビッチ氏でした。
3日間のトレーニングを見ていて、特に印象に残ったことがあります。
それは、
選手がミスをしたとき、すぐに「答え」を教えないこと。
でした。
日本の指導現場では、
「そこに動こう」
「今はパス」
「こう守る」
「次はここへ走る」
と、指導者が正しいプレーを伝える場面をよく見ます。
もちろん、それが必要な場面もあります。
しかしペトコビッチ氏の指導では、選手にすぐ正解を与えるというより、
選手自身に状況を見させ、考えさせ、もう一度プレーさせる。
そんな場面が何度もありました。
なぜなのでしょうか。
今回のサマーキャンプを通して、改めて「選手を育てる」ということについて考えさせられました。
「正しいプレーを教える」と「判断できる選手を育てる」は同じなのか

育成年代の指導では、
「正しい技術を身につけさせること」
は非常に大切です。
シュートフォーム。
パス。
ステップ。
ディフェンスの姿勢。
攻撃の動き方。
基本を知らなければ、プレーの選択肢そのものが増えていきません。
だから、技術を教えること自体が悪いわけではありません。
一方で、ハンドボールの試合では、同じ状況が完全に同じ形で繰り返されることはほとんどありません。
相手の位置が違う。
味方の位置が違う。
スペースが違う。
残り時間が違う。
点差が違う。
その瞬間ごとに、自分で状況を見て判断する必要があります。
試合中、指導者がすべての答えを教えることはできません。
だからこそ育成年代では、
「何をすれば正解なのか」を覚えるだけではなく、「どうやって答えを見つけるのか」を身につけること
も必要なのではないか。
ペトコビッチ氏の指導を見ながら、そんなことを感じました。
ミスをした瞬間に、すぐ止めない
今回のトレーニングでは、選手たちが当然たくさんミスをしました。
パスがずれる。
判断が遅れる。
スペースを見逃す。
ディフェンスで対応できない。
それでも、すぐにプレーを止めて細かく修正するのではなく、まず続けさせる場面がありました。
そして必要なタイミングで問いかける。
「今、何が起きていたのか」
「どこにスペースがあったのか」
「相手はどう動いていたのか」
「次はどうすればいいのか」
大切なのは、指導者が答えることではありません。
選手自身が、自分のプレーを振り返ること。
そして、もう一度やってみることです。
最初は、日本の選手たちも戸惑っていました。
「何をすればいいのか教えてほしい」
そんな空気を感じる場面もありました。
でも、時間が経つにつれて少しずつ変わっていきました。
3日間で、選手たちの会話が増えていった

特に印象的だったのは、トレーニングが進むにつれて選手同士のコミュニケーションが増えていったことです。
最初は、指導者からの指示を待つ。
でも徐々に、
「ここじゃない?」
「次はこうしよう」
「今のスペース使えるよ」
と、自分たちで考え、声をかけ合うようになっていきました。
もちろん、3日間ですべてが変わるわけではありません。
ただ、
指導者から答えをもらうのではなく、自分たちで答えを探す時間
が増えることで、選手たちの関わり方にも変化が見えました。
これは単なる技術練習とは少し違います。
「考えること」そのものをトレーニングしているように感じました。
なぜ「考える選手」が必要なのか
ハンドボールは非常に速いスポーツです。
攻守がすぐに入れ替わる。
数秒の中で状況が変化する。
そのたびにベンチを見て指示を待っていては間に合いません。
だからトップレベルになればなるほど、
選手自身が状況を認知し、判断し、実行する力
が必要になります。
これはハンドボールだけではありません。
サッカーでも、バスケットボールでも、ラグビーでも同じです。
球技では、
「技術を持っていること」
と
「その技術をいつ使うのか判断できること」
は別の能力です。
シュートが上手くても、打つべきタイミングが分からなければ生かせません。
パスが上手くても、どこにスペースが生まれるか分からなければ生かせません。
だから育成年代では、
技術を教えることと同時に、判断する経験をどれだけ積ませられるか。
そこが重要なのだと思います。
日本の指導が間違っている、という話ではない
ここで誤解してほしくないのは、
「日本の指導は間違っていて、ドイツの指導が正しい」
という話ではないということです。
日本の指導には、日本の良さがあります。
基礎を丁寧に教える。
規律を大切にする。
反復して技術を身につける。
仲間のために努力する。
こうした文化によって育ってきた選手もたくさんいます。
一方で、海外の指導を見ることで、
「別の育て方もある」
という選択肢を持つことができます。
大切なのは、どちらかを否定することではありません。
世界には、違う考え方があることを知る。
そのうえで、
「自分たちの環境に何を取り入れられるだろう」
と考える。
GlobeHand Projectが海外の指導者を日本へ招いている理由の一つも、そこにあります。

練習メニューだけを持ち帰っても、本質は変わらない
海外のトレーニングを見ると、
「この練習、面白い」
「このメニューをチームでやってみよう」
と思うことがあります。
もちろん、それも一つの学びです。
でも、今回ペトコビッチ氏の指導を見て改めて感じたのは、
練習メニューより、その練習を「なぜやるのか」の方が大切
だということです。
同じ練習でも、
指導者がすべて正解を教えるのか。
選手に考えさせるのか。
ミスをすぐ止めるのか。
少し待って、自分で気づかせるのか。
指導者の関わり方によって、練習の意味は大きく変わります。
海外から練習メニューだけを輸入しても、育成思想が同じになるわけではありません。
だからGlobeHand Projectでは、これからブログでも、
「どんな練習をしたか」だけではなく、「なぜその指導をするのか」
まで伝えていきたいと思っています。
選手に「考えさせる」ことは、放任することではない
これも非常に大切なところです。
「選手に考えさせる」
というと、
「自由にやらせればいい」
と思われるかもしれません。
でも、そうではありません。
指導者には、
何を学ばせたいのか。
どんな状況を作るのか。
どこまで待つのか。
いつ介入するのか。
どんな問いを投げかけるのか。
という設計が必要です。
つまり、
答えを教えないことと、何も教えないことはまったく違います。
むしろ、選手に考えさせるためには、指導者側により深い理解が必要になります。
選手がどこでつまずいているのか。
何を見えていないのか。
何を問いかければ気づけるのか。
そこまで考える必要があるからです。
指導者が変われば、選手の学び方も変わる
今回のサマーキャンプは、選手たちだけの学びの場ではありませんでした。
指導者講習会にも多くの日本人指導者が参加しました。
そこで見てほしかったのも、練習メニューだけではありません。
ペトコビッチ氏が、
どのタイミングで止めるのか。
どんな言葉をかけるのか。
どこまで選手に任せるのか。
どの場面では具体的に修正するのか。
こうした「指導者の振る舞い」そのものです。
選手を変えようとする前に、
指導者自身の関わり方を変える。
それによって、選手が考える時間は増やせるかもしれません。
世界の育成文化を、日本へ
GlobeHand Projectがやりたいのは、
海外の練習メニューを日本に紹介することだけではありません。
なぜ、その国ではそのような指導が行われているのか。
どんな選手を育てようとしているのか。
その背景には、どんなクラブ文化や社会があるのか。
そこまで含めて日本へ届けたいと考えています。
今回のペトコビッチ氏の指導も、その一つです。
「答えを教えない」
という表面的な方法だけを真似するのではなく、
なぜ選手自身に考えさせるのか。
そこを理解することが大切です。
試合で最後に判断するのは、選手です。
だからこそ、
指導者の答えを再現する選手ではなく、
自分で状況を見て、自分で答えを出せる選手を育てる。
世界トップレベルの指導者と3日間を過ごして、改めて考えさせられたことでした。
GlobeHand Projectでは今後も、サマーキャンプで実際に行われたトレーニングや、ペトコビッチ氏・スタニスラフ氏から直接学んだ育成思想を、このブログで少しずつ紹介していきます。
練習方法だけではなく、
その奥にある「なぜ」を知る。
世界のスポーツ文化・育成を、日本へ。
それが、これからGlobeHand Projectがメディアとして届けていきたいことです。

