今年開催したドイツハンドボールサマーキャンプ2026では、選手への指導だけでなく、 世界のトップレベルで指揮を執ってきたヴェリミール・ペトコヴィッチ、 そしてドイツの育成年代で指導してきたスタニスラフ・ジュコフに、 育成年代の選手育成について話を聞く機会がありました。
2人の話を聞いていて、私が改めて考えさせられたことがあります。
私たちは、目の前の試合だけではなく、 その選手の5年後、10年後まで見て指導できているだろうか。
今回は、2人のインタビューの中でも特に印象に残った内容から、 育成年代の指導について考えてみたいと思います。
目次
- 育成年代の指導者の仕事は「大会で1位になること」ではない
- トップレベルでも「十分に育っていない選手」がいる
- 今の子どもたちは、昔より教えることが増えている
- 子どもを取り巻く環境が変われば、指導も変わる
- 2人のインタビューをYouTubeで公開しています
- 育成年代の指導者は、どこまで未来を考えるのか
育成年代の指導者の仕事は「大会で1位になること」ではない

ペトコヴィッチのインタビューの中で、特に印象に残った言葉があります。
育成年代の指導者にとって一番大切な仕事は、 「大会で1位になることではない」 という話です。
もちろん、試合に勝つことが悪いわけではありません。
選手が勝利を目指して努力すること。 仲間と本気で競い合うこと。 試合の中で成功や失敗を経験すること。
こうした経験には大きな価値があります。
ただし、育成年代で「今、勝つこと」が優先されすぎると、 本来その年代で身につけるべき能力を十分に伸ばせないまま、 次のカテゴリーへ進んでしまう可能性があります。
トップレベルでも「十分に育っていない選手」がいる

ペトコヴィッチは、 育成年代で勝つことが求められすぎた結果、 トップ選手になるために必要な能力を十分に身につけないまま 上のカテゴリーへ進んでしまう選手がいると話していました。
そして、それは世界最高峰のリーグの一つである ドイツ・ブンデスリーガでも見られる問題だと言います。
この話を聞いたとき、私は 「これは日本でも同じではないか」 と感じました。
目の前の大会で勝つためには何が必要か。
それと同時に、 その選手が5年後、10年後により高いレベルでプレーするために、 今どんな能力を身につける必要があるのか。
育成年代では、この2つを分けずに考える必要があるのではないでしょうか。
今できる選手だけが試合経験を得る環境になっていないか。
すぐに結果につながるプレーばかりを求めていないか。
今は失敗しても、将来必要になることへ挑戦する時間を与えているか。
世界のトップレベルを知る指導者の言葉だからこそ、 改めて考えさせられました。
今の子どもたちは、昔より教えることが増えている
もう一つ印象的だったのが、 スタニスラフ・ジュコフの話です。

スタニスラフは、 現在の子どもたちは昔に比べて外で遊ぶ機会が減り、 スマートフォンやゲームに触れる時間が増えていると話していました。
その結果、 指導者が子どもたちに教えなければならないことが増えている というのです。
これも、ドイツだけの問題ではありません。
日本の子どもたちを取り巻く環境も大きく変わっています。
昔であれば、公園や空き地で遊び、 年齢の違う子どもたち同士で遊ぶ中で、 自然に身につけていたことがありました。
- 走る
- 跳ぶ
- 投げる
- 相手との距離を感じる
- 状況を見て判断する
- 失敗したら別の方法を試す
- 自分たちで遊び方を考える
こうした経験が以前より少なくなっているのだとすれば、 スポーツの指導現場も昔と同じままでいいとは限りません。
子どもを取り巻く環境が変われば、指導も変わる

私自身、幼児や小学生を対象としたスクールを運営しています。
そこでは、いきなりハンドボールの技術だけを教えるのではなく、 さまざまな動きやゲームを取り入れています。
その理由の一つが、 子どもたちがスポーツを始める前に持っている経験そのものが、 以前とは変わっていると感じているからです。
スポーツの専門的な技術を教える前に、 動くことそのものを楽しむ経験や、 自分で考えたり、試したりする経験が必要な子もいます。
だからこそ、 「昔はこれくらいできた」 「これくらいはできて当たり前」 という前提で指導するのではなく、 今の子どもたちがどんな環境で育っているのかまで考える必要があります。
子どもたちを取り巻く環境が変われば、 育成年代の指導者に求められる役割も変わっていく。
スタニスラフの言葉を聞きながら、 改めてそう感じました。
2人のインタビューをYouTubeで公開しています
今回紹介したペトコヴィッチとスタニスラフの話は、 YouTubeで公開しているインタビューの中で実際に語られています。
文章だけでは伝わらない本人たちの表情や言葉のニュアンスもありますので、 ぜひ動画でもご覧ください。
▼世界的名将ペトコヴィッチ、スタニスラフが語る「日本のハンドボール育成」
育成年代の指導者は、どこまで未来を考えるのか
今回のインタビューの中で、 「育成年代ではこれを教えればいい」 という明確な答えが示されたわけではありません。
私が2人の話から受け取ったのは、 むしろ一つの問題提起でした。
育成年代で勝つことが求められる一方で、 将来必要になる能力が十分に育っていない選手がいる。
そして現代の子どもたちは、 以前なら日常生活や遊びの中で自然に経験していたことまで、 スポーツの現場で意図的に経験させる必要が出てきている。
そう考えると、 育成年代の指導者は、 目の前の試合を勝たせることだけを考えていていいのでしょうか。
今、この子には何が必要なのか。
数年後、この子にはどんな力が求められるのか。
今すぐ試合の結果には表れなくても、 今だからこそ経験しておくべきことは何なのか。
そこまで考えて環境をつくることも、 育成年代に関わる指導者の重要な役割なのではないかと思います。
私自身も、明確な答えを持っているわけではありません。
だからこそ、 世界の育成現場に触れ、 さまざまな指導者の考えを聞き、 日本の現場と照らし合わせながら考え続けたいと思っています。
その目の前の勝利は、 その子の5年後、10年後の成長につながっているだろうか。
ペトコヴィッチとスタニスラフの話を聞いて、 改めて自分自身にも問い直したことでした。

