「なぜ、ドイツはハンドボールが強いのか?」
強い選手がたくさんいるから。
優秀な指導者がいるから。
練習方法が優れているから。
もちろん、それらも理由の一つでしょう。
しかし、GlobeHand Projectとして実際にドイツを訪れ、 現地のクラブや試合、育成年代の環境を見ていると、 コートの中だけを見ていても、ドイツの強さは説明できない と感じます。
そこには、子ども、選手、指導者だけではなく、 家族、地域の人、観客、スポンサー、ボランティアまでが関わる、 大きな「スポーツ文化」があります。
今回はChallenge Tour 2027の選手たちへの事前講座でも扱う、 「なぜドイツはハンドボールが強いのか?」 というテーマについて考えてみます。
目次
- 1. 約79万人が関わるドイツハンドボール
- 2. 約4,200の地域クラブが存在する
- 3. 「クラブ」は子どもだけのものではない
- 4. 試合会場で感じる「観客文化」
- 5. 選手を育てるのは指導者だけではない
- 6. 強いから文化になったのか?文化があるから強いのか?
- 7. Challenge Tourで選手たちに見てほしいもの
1. 約79万人が関わるドイツハンドボール

ドイツのハンドボール環境を考えるうえで、 まず知っておきたいのがその規模です。
ドイツハンドボール連盟(DHB)の加盟会員規模は 約79万人。
一方、日本のハンドボール登録競技者は約8.7万人です。
ただし、日本とドイツでは登録制度や「会員」の定義が異なるため、 この数字をそのまま比較して 「ドイツは日本の約9倍」と考えるのは適切ではありません。
それでも、ドイツでは非常に多くの人が ハンドボールを取り巻く環境の中にいることが分かります。
では、なぜこれほど多くの人がハンドボールに関わるのでしょうか。
2. 約4,200の地域クラブが存在する

ドイツには、約4,200のハンドボールクラブがあり、 約21,000のチームが活動しています。
ここで大切なのが、 「1クラブ=1チーム」ではないということです。
一つの地域クラブの中に、 子どもから育成年代、成人まで、 複数の年代・カテゴリーのチームが存在します。
たとえば、
- Kinder(子ども)
- U11
- U13
- U15
- U17
- U19
- 成人
といったように、 同じ地域クラブの中で世代を超えてスポーツに関わる 仕組みがあります。
日本では、小学生クラブ、中学校、高校、大学、社会人と、 年代が変わるたびに所属する組織も変わるケースが多くあります。
もちろん、どちらが良い・悪いという話ではありません。
重要なのは、 日本とドイツでは、スポーツを支えている「仕組み」そのものが違う ということです。
3. 「クラブ」は子どもだけのものではない

ドイツのスポーツ文化を理解するときに、 一つのキーワードになるのが 「Verein(フェライン)」です。
日本語では「クラブ」「協会」などと訳されますが、 実際に現地を見ていると、 単なる「子どもにスポーツを教える場所」だけではないことを感じます。
子どもがプレーする。
大人もスポーツを続ける。
家族が試合を見る。
地域の人がクラブを応援する。
指導者やボランティアとして関わる人もいる。
そして企業がスポンサーとしてクラブを支える。
「プレーする人」だけではなく、 さまざまな立場の人がスポーツに関わっている。
これが、ドイツの地域クラブを見ていて非常に興味深い部分です。
4. 試合会場で感じる「観客文化」

GlobeHand Projectとしてドイツへ行く中で、 個人的にとても印象に残っていることがあります。
それは、観客の世代の幅広さです。
試合会場には子どもや若い選手だけではなく、 お父さん、お母さん、 そしておじいちゃん、おばあちゃん世代の人たちもいます。
これは統計上の話ではなく、 私たちが現地の試合会場で実際に見てきた光景です。
日本で育成年代のスポーツを見ると、 観客の多くが選手の保護者や関係者、または若い世代の方ということも珍しくありません。
しかしドイツでは、 「自分の子どもが出場しているから見る」という関係を超えて、 地域のクラブやハンドボールそのものを楽しんでいる人たち の存在を感じます。
だからこそ、ハンドボールが 「子どもがするもの」「選手だけがするもの」ではなく、 世代を超えて地域に存在し続けるのではないでしょうか。
5. 選手を育てるのは指導者だけではない
強い選手を育てるためには、 良い指導者や良い練習環境が必要です。
しかし、それだけで長期間にわたって 多くの選手が育ち続ける環境を作れるでしょうか。
ドイツのハンドボールを見ていると、 こんな循環が見えてきます。
地域にクラブがある
↓
子どもたちがハンドボールを始める
↓
大人になってもスポーツに関わる
↓
家族や地域の人がクラブを応援する
↓
観客・スポンサー・ボランティアが集まる
↓
クラブが継続する
↓
次の世代の子どもたちが育つ
つまり、 選手を育てているのは、指導者だけではありません。
クラブ、家族、地域、観客、スポンサー、ボランティア。
さまざまな人が関わる環境そのものが、 次の世代を育てているとも考えられます。

6. 強いから文化になったのか?文化があるから強いのか?
ここで、一つの疑問が生まれます。
ドイツのハンドボールは、強いから文化になったのでしょうか?
それとも、
ハンドボールが文化として根付いているから、強くなったのでしょうか?
おそらく、どちらか一方だけで説明できるものではありません。
代表チームやトップリーグが活躍する。
それを見て子どもたちが憧れる。
地域クラブで競技を始める。
そこで育った人が、 今度は観客、指導者、保護者、ボランティア、 スポンサーなど、さまざまな形でスポーツを支える側になる。
そして次の世代が育っていく。
「競技力」と「文化」が、お互いを支えながら循環している。
私たちがドイツから学べるものは、 練習メニューや戦術だけではないのかもしれません。
7. Challenge Tourで選手たちに見てほしいもの

Challenge Tourでは、 もちろんドイツでハンドボールをします。
ドイツの選手と一緒に練習し、 試合をし、 自分のプレーがどこまで通用するのか挑戦します。
しかし、それだけがChallenge Tourの目的ではありません。
体育館にどんな人が来ているのか。
地域の人はクラブとどう関わっているのか。
同年代の選手たちは、 どんな環境でスポーツをしているのか。
クラブは地域の中でどんな存在なのか。
日本との違いは何なのか。
そして、
「なぜドイツでは、ハンドボールがこれほど地域に根付いているのか?」
そんなことまで、自分の目で見て、 自分なりに考えてほしいと思っています。
海外へ行く価値は、 日本にない「正解」を探しに行くことではありません。
自分がこれまで知らなかった世界を知り、 自分の選択肢を増やすこと。
だから私たちは、 選手たちをただドイツへ連れて行くのではなく、 出発する前からこうしたことを一緒に学んでいます。
世界へ行く前に、僕たちが学ぶこと。
今回の記事は、Challenge Tour参加選手に向けて行っている 事前講座の内容をもとにしたシリーズ第1回です。
次回は、
「日本とドイツ、スポーツの『仕組み』は何が違う?」
というテーマから、 学校・部活動を中心に発展してきた日本と、 地域クラブを中心とするドイツのスポーツ環境について考えます。
どちらが優れているかを決めるためではありません。
違う環境を知ることで、 自分たちが当たり前だと思っているスポーツの姿を、 もう一度考えてみる。
それも、世界を見る意味の一つだと私たちは考えています。
GlobeHand Project
世界のスポーツ文化・育成を日本へ。
「選ばれたから世界へ行く」のではなく、
「世界を目指すから、挑戦する。」

