日本のジュニアスポーツには、ある“当たり前”があります。
それは「子どもでも大人と同じルールでプレーする」という考え方です。
ハンドボールで言えば、3歩ルール、コートサイズ、ゴールサイズ。
これらはすべて本来、大人の競技基準として設計されたものです。
ちなみにサッカーは人数が減った8人制、バスケはゴールの高さが下がったミニバス、バレーボールはネットの高さが下げられてます。
しかし、ここに大きな違和感があります。
発育発達の観点から見ると、子どもは決して“大人のミニチュア版”ではありません。
スキャモンの発育発達曲線でも示されているように、神経系は幼少期に急速に発達し、筋力や持久力は思春期以降に大きく伸びていきます。

つまり小学生年代で最も重要なのは、「正しくプレーすること」ではありません。
「多様な動きを経験すること」そして「挑戦すること」です。
この視点に立つと、指導のあり方は大きく変わります。
例えば、私たちのスクールでは低学年の子どもに対して歩数制限をあえて緩くしています。
本来ハンドボールは3歩ルールですが、これを厳格に適用すると「前に進もう」という意欲そのものが止まってしまうことがあります。
大切なのは、まず前に進むこと。
ゴールに向かうこと。
その意欲を守ることです。
また、ディフェンスの考え方も同じです。
日本では「ゴールを守る」意識が強く、ゴール前に固まる守備が多く見られます。
しかしジュニア年代では、「ボールを奪いに行く」ことの方がはるかに重要かつ、本能的な動きです。
そのため、私たちは前から積極的にプレッシャーをかける“オープンディフェンス”を多く取り入れています。(というかどこで守るかに関しては何も言わないので本能的に自然にそうなります)
これは単なる戦術ではなく、「ボールに関わる回数」を増やし、「判断の機会」を増やすための設計です。
使う道具にも意味があります。
スクールでは、握りやすく軽いボールを使用しています。
重いボールはキャッチ時の恐怖心を生み、投球フォームを崩しやすくなります。
しかし軽いボールであれば、子どもたちは自然に身体を大きく使い、後ろにしっかりと引き、頭の上からのオーバースローの正しい投げ方を身につけていきます。
ゴールサイズも同様です。
大きすぎるゴールでは、キーパーはただ“入れられる存在”になってしまいます。
少し小さなゴールを使うことで、キーパーも試合の主役になります。
これによってゲーム全体の質と楽しさが大きく変わります。

上の写真は実際にドイツで見たU12のゴールサイズです。幅は大人のサイズと一緒ですが、高さは160cm程度です。
上が低い分、ゴールキーパーはシュートを止めるチャンスが増えるため活躍する可能性が高くなります。そのためドイツではゴールキーパーが大人気のポジションでゴールキーパー大国と言われています。
また、シューター側も空いたところを狙うだけでなく、キーパーとの駆け引きをジュニア世代から身につけることができます。
これらはすべて共通した一つの思想から来ています。
それは「子どもを大人のミニチュアとして扱わない」ということ。
ドイツの育成現場で強く感じたのは、まさにこの点でした。
ルール、環境、道具。すべてが発育段階に合わせて設計されています。
その結果、子どもたちは自然とボールに触れる回数が増え、考える機会が増え、主体的にプレーするようになります。
一方で日本では、「正しくプレーすること」が目的になりやすい傾向があります。
しかしそれが行き過ぎると、挑戦する意欲や前に進む力を失ってしまうこともあります。
育成とは、競技を教えることではありません。
人の成長を支えることです。
その視点に立ったとき、ルールは絶対ではなくなります。
環境は固定されたものではなくなります。
指導者に求められるのは、「正解を教えること」ではなく、その子にとって最適な環境を設計すること。
そして保護者の方には、「できた・できない」ではなくどれだけ挑戦しているかに目を向けてほしいと思います。
ジュニアハンドボールとは、単に年齢の低いカテゴリーではありません。
発育発達に基づき、未来の可能性を最大化するための“設計された環境”です。
この考え方が広がれば、日本のハンドボールはもっと面白くなる。もっと伸びる。
私はそう確信しています。

